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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1316号 判決

控訴人 木村嘉彦

右訴訟代理人弁護士 水田猛男

被控訴人 都島自動車株式会社

右代表者代表取締役 高士政郎

右訴訟代理人弁護士 赤鹿勇

同 竹内知行

同 門脇正彦

同 出宮靖二郎

主文

原判決を取消す。

被控訴人の主請求を棄却する。

被控訴人の予備的請求に基き控訴人は被控訴人に対し金二二九、〇二〇円及びこれに対する昭和三八年二月一一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

この判決は第三項に限り被控訴人において金七万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

被控訴人がタクシー営業等を目的とする会社であることは当事者間に争がない。

そして≪証拠省略≫に弁論の全趣旨を綜合すると次の事実が認められる。

一、控訴人は昭和三七年一一月一二日被控訴会社に対し乗車券使用契約の申込をしたがその際所定の乗車券申込用紙(甲第一号証)に左記の記入をしてこれを被控訴会社に提出して、被控訴会社は同日これを受理して右申込を受諾した。

乗車券申込書

住所 大阪市西区京町堀二丁目一六四

会社名 大日本物産株式会社

代表者 木村嘉彦

電話番号四四一局 三四〇七

三四二七番

四八二九

資本金 五百万

営業種目 技術開発

取引銀行 大阪銀行江戸堀支店

乗車運賃 支払日毎月十日

〆切日

乗車券

取扱者氏名 〈印〉

今般乗車券使用の契約致したく申込みます。

右木村嘉彦(木村)

都島自動車株式会社 御中

(註、、、は控訴人記入部分他は不動文字)

二、右にいわゆる乗車券使用契約とは申込者において被控訴会社より申込者の口座番号等記入した乗車券(チケツト)の発行をうけ、これを使用して自己又は使用人等が被控訴会社のタクシーに乗車した場合その運賃について現金払をせず、約定の支払日にまとめて申込人(契約者)において支払の責に任ずべきことを約したものである。

三、控訴人は被控訴人より右契約により交付をうけたチケツトを使用して(一部は右肩書のある自己の名刺を使用して)被控訴会社との間に明細原判決添附別紙記載のとおり運送契約をしタクシー運賃合計二二九、〇二〇円の支払債務を負担するに至つた。

以上の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

被控訴人は右乗車券使用契約の申込者は控訴人個人で被控訴会社は個人との間に契約したものであると主張する。そして前記申込用紙の記載中最后の申込人欄には「右」の次に単に「木村嘉彦」の署名捺印のみあつて、これに会社の代表者という肩書がないが、前記申込用紙の記載を全体としてみるとき、右用紙はその不動文字よりみて元来会社を申込人とする場合の用紙であり、それに記入された右事項からみてまた右申込の際に特に控訴人個人としての申込なることを確めた形跡の認められない本件においては右申込は控訴人が右会社の代表者として申込んだものと認めるを相当とする。

そこで右訴外大日本物産株式会社の存否について検討するに右会社の登記の存在を立証出来ないことは控訴人の自陳するところであり、成立に争のない甲第五号証によればむしろ右会社は存在しないものであることが認められる。(控訴人は右会社はその肩書地にその看板をかかげて営業活動をしていたというがかりにそのような事実があつてもそれだけで会社が法律上存在するものということは出来ず、只会社という商号を使用して一人又は数人が営業活動をしているにすぎず、また定款の作成並にその内容についての主張立証のない本件において右会社は未だ設立中の会社―人格なき社団―とさえも認められない)。

以上認定のとおりとすれば、控訴人は結局訴外大日本物産株式会社なる会社が存在しないのにその代表者名義をもつて本件取引(乗車券使用契約及び運送契約)を被控訴会社との間に締結し被控訴人との間に前記運賃債務を負担するに至つた者でありこの関係は恰も無権代理の場合と類似するから、取引の相手方たる被控訴人に対して民法第一一七条第一項の類推適用によりその履行又は損害賠償の責に任ずべきところ、(昭和三三年一〇月二日最高裁判決集十二巻十四号三二二八頁)被控訴人は本訴において契約の履行として運賃及びこれに対する支払期後であること明かな昭和三八年二月一一日より完済迄商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものであるから、右請求は正当でこれを認容すべく、右請求は個人たる控訴人と被控訴人間の契約に基く主請求としては失当であること明らかであるが、控訴人に対し民法第一一七条の責任を求める予備的請求として相当である。よつてたやすく主請求を認容した原判決は民事訴訟法第三八六条によりこれを取消しその請求を棄却し、予備的請求を認容し訴訟費用につき民事訴訟法第九六条第九二条仮執行宣言につき同法第一九六条を適用し主文の通り判決した。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 井上三郎)

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